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アイメッセージインタビュー
≪ 2009年8月号 ≫アイメッセージインタビュー福山市 株式会社虎屋本舗 代表取締役社長 高田信吾さん

アイメッセージ お菓子づくりを通じて、子供たちに伝えていきたいものがあります。

全国の城下町には、その地を代表する和菓子の老舗がある。福山なら「とんど饅頭」や「虎焼」で親しまれてきた「虎屋」をおいてほかにはない。最近では、生どら焼きの「虎ちゃん」をはじめ、本物そっくりのスイーツや和菓子など、ユニークな新商品を次々と発表し、マスコミで紹介される機会も多い。それらの商品の多くは高田社長のアイデアから生まれたものだ。今回は「虎屋」第16代当主にして現社長の高田信吾さんにインタビューをお願いし、そのユニークな発想の秘密に迫ってみた。

優等生でありながらスポーツ万能の少年時代

 約束の時間に来られた高田社長は、江戸時代から続く老舗の16代目というより、広告や映像関連の仕事をしているディレクターのような雰囲気が漂う人物。今年46歳ということであるが、健康的に日焼けした外見は、もっと若々しく見える。
「こつこつと家業の饅頭づくりをするようなタイプではなかった」と若い頃を振り返る高田社長。その青春時代は、スポーツとファッションと音楽に彩られている。
 スポーツは、小学校の頃からテニス、サッカー、ソフトボール…と興味のおもむくままにチャレンジした。テニスでは中学時代に県大会で優勝し、テニスの名門・柳川高校へテニス留学をするという計画まで持ち上がったほどである。結局、父親の方針で取りやめになったが、どの競技でもまわりが驚くような結果を出すスポーツ万能の少年であった。
 勉強に関しても小学校の頃は優等生の名をほしいままにし、中高一貫教育の私立の進学校に進んだ。しかしどういうわけか、途中から勉強よりも「ファッション」や「音楽」に夢中になっていったという。

お小遣いのほとんどをファッションにつぎ込む

「私が中学生だった当時、ヴァン(VAN)というブランドが男の子に人気がありました。ポパイやホットドッグプレスというヤング向けの雑誌を熱心に読み、小遣いのほとんどをファッションにつぎ込むという時期がしばらく続きました」と高田社長。
それ以来、ファッションには独自の見識を持つようになった。そして大学卒業後の一時期、アパレルメーカーで仕事をすることになる。
「そのときは、営業を担当したのですが、仕事を続けているうちに、自分に向いている仕事はファッションデザイナーのような、ものを創りだす仕事ではないかという気持ちを強く持ちました」と語る。

ロックとの出会いレッド・ツェッペリンにはまる

音楽に関しても、入れ込み方は半端ではない。「およそ地球上にあるロック音楽は全部聴いたといっても過言ではない」というほどのロック好き。とくに若き日の高田社長の心をひきつけたのがイギリスのロックバンド「レッド・ツェッペリン」であり、そのメンバーのひとり、ジミー・ページである。
 「レッド・ツェッペリンは、最初はピンとこなかったのです。でも高校2年の時に熱烈なファンだった同級生に、聴いてみろといわれ、いやいや聴いていたのですが、ある日気がついたら完全に、はまっていた」という。
「今になってわかるのですが、レッド・ツェッペリンの楽曲は、ロックの総体といわれるくらいに、ヘビーメタル、ハードロック、ロックンロール、ソウル、ブルース、レゲエと、ロックから枝分かれした音楽すべてに影響を与え、進化させているのです」
 ロックに関する造詣は深く、「ロック評論家ができる」というほど年季が入っている。この音楽好きは現在も続き、「今はジャズに凝っている」ということである。

ニューヨークの前には、ロスも西海岸も吹き飛ぶ

そして、東京の大学(国学院大学)へ進んだことが、高田社長の感性をさらに刺激し、磨いていく。「最近では、東京と地方の文化的格差は小さくなりましたが、当時はファッション、音楽、その他あらゆる分野の最先端が東京にありました。ですから、いろいろなアルバイトをしながら、なんでも吸収してやろうと動き回りました」。
動き回った範囲は国内だけではない。ファッションを追求しているうちにサーフィンに夢中になり、ついには大学卒業の3月にサーフィンの聖地といわれたアメリカ西海岸、ロスアンゼルスにまで一人で行ってしまうのである。
「レンタカーに乗って、カリフォルニア・ルート1という国道を野宿しながら南下しました。一人旅でしたが、ニューヨークから来ていた現地の若者とカフェで知り合い、意気投合したのです。その若者からニューヨークへ来いと誘われました。当時は西海岸に夢中で、ニューヨークなど興味はなかったのですが、3日間ほど行きました」
そして、マンハッタンのビル群を見た高田社長は、新たな衝撃を受けるのである。「大都会ニューヨークの前にはロスも吹き飛びました。西海岸の海を眺めていても、ビジネスの発想は湧きませんが、あの高層ビルを眺めているとビジネスのイメージが湧いてきますね。とにかく刺激的な街でした」

父親が病気になり状況が一変する

 こうした経歴を見ると、とても江戸時代から続く和菓子屋の御曹子には見えない。高田社長も「弟がいたので、私自身は家業を継ぐ気持ちはあまりなかった」と言う。大学を卒業してからも、アパレルメーカーで仕事をしていたのだが、父親が病気になり、状況が一変する。
「親父がもう長くないということがわかり、すぐに呼び戻されました。27歳のときです。その頃は『とんど饅頭』や『虎焼』など代々受け継いできた和菓子が中心で、洋菓子もやってはいましたが、今に比べると商品点数も少なく、家内企業のような感じでした」と当時を振り返る。
 そして、療養中の父親に代わり、虎屋の経営に本格的に携わることになる。高田社長が最初にやった大きな仕事は、CIである。その当時、1989~90年頃はバブルの全盛期である。好景気に支えられ、多くの企業がCIを実施した。CIとはコーポレート・アイデンティティの略だが、わかりやすく言うと、企業名やロゴを変えて、新たなイメージと価値を創造しようという動きである。例えば、国鉄がJRに、電電公社がNTTに変わったのもCIの一つである。

CIの失敗で経営と真剣に取り組むことに

 虎屋では1990年に東京の広告代理店に依頼し、CIに乗り出した。包装紙を変えたり、ロゴを変えたりして、企業イメージの刷新に取り組んだ。しかし、このCIは期待したほどの効果は上がらず、逆に多額の借金を抱え込むことになる。
 「今にして思えば、企業経営も消費者心理もわからないままに、流行しているという理由でCIをやったのです。結果的には、広告会社に踊らされたようなものでした」と高田社長。しかし、この失敗が経営を見つめ直し、一から勉強しようという強い気持ちを抱かせた。もともと経済学部の出身で、基本はできている。そこへ松下幸之助をはじめいろいろな経営者の書いた本や孫子などの経営書を読み、経営者精神を学んだ。
戦略、戦術面では、ランチェスターの法則から入り、経営学のマイケル・ポーター、マーケティングのフィリップ・コトラー、ブランディングのデービッド・A.アーカー、コンピタンスのゲリー・ハメルなど、著名な学者の著書を次々と読破していった。
そして37歳のとき、あらゆる経営学の要点が孫子にあることがわかり、「もう経営の勉強は終わり」と宣言することになる。高田社長によると、経営のすべては孫子の書に集約されており、それを読めば十分だという。

生どら焼き「虎ちゃん」やそっくりスイーツを考案

 勉強する一方で、独学した経営理論を応用して、商品の見直しや新たな出店計画を進めた。そのとき役立ったのが、ファッションや音楽で育んだ柔軟な発想と時代を見る目だ。高田社長が最初に取り組んだのは、もっと若者向けの定番商品がつくれないかということである。「私が社長になった頃、虎屋は和菓子屋というイメージが強く、客層も年配の方が多かったのです。そこで考えたのがどら焼きの中身を洋風にした『虎ちゃん』です」。
この「虎ちゃん」は、発売後15年を経た現在も好評で、虎屋の主力商品となっている。たこ焼きに似たシュークリームに代表されるそっくりスイーツも高田社長のアイデアから生まれた。「あれは、たこ焼きを食べているときに思いついたものです。思いついたアイデアはノートに書きとめておきますが、そうしたアイデアがもう1000例以上になる」という。

売上金額や事業規模でなく菓子づくりで評価されたい

出店も車社会に合わせてロードサイド化をすすめ、現在では本店を含めて福山市周辺で12店舗を数えるまでになった。最近では、インターネットによる注文も多い。 マーケティングを勉強した高田社長なら、そっくりスイーツのようにマスコミが喜びそうな商品をどんどん開発し、マスコミという波に乗り、虎屋ブランドをもっと全国に広める戦略をとることも可能だろう。だが、いたずらに売上げを伸ばし、会社を大きくすることだけを目標にしてはいない。
「親父や爺さんからいつも言われていたのは、まず『体に害のあるようなものは絶対に入れるな』ということ。それと『味の保証ができなくなるほど会社を大きくするな』ということです」
生産量が多くなりすぎると、生菓子などデリケートな食品はすぐに味に変化が出てくる。高田社長はその味を「資本主義の味」と呼んで、自らの戒めとしている。そして、売上金額や事業規模で評価されるのではなく「全国どこにもないユニークでおいしい菓子をつくる菓子屋として評価されたい」と言う。

伝統の技術と精神は新しい菓子づくりにも必要

「虎屋」には400年におよぶ和菓子づくりの技術がある。その技術はそっくりスイーツなどの商品づくりにも活かされている。つまり、新しいジャンルの菓子をつくるにも伝統の和菓子づくりの技術が応用されているのである。
「新しい菓子にチャレンジすることで、和菓子づくりで培われた伝統の技術と精神が大切であることを再認識しました。ですから、うちではその技術と精神を忘れないためにも、お寿司やおせち料理に似せた季節の和菓子をつくり続けるのです」と高田社長。
 採算性や経営効率だけを追求するなら、もっと売れ筋商品に特化した事業戦略をとればいい。しかし、あえてそれをしないのが、400年続いた老舗としての矜持と見識というものだろう。虎屋には、「和魂商才」という商訓と商人道と呼ばれる祖先の教えがある。そこに記されているのは、商人としてまっとうに生きることで、売上げを伸ばし、事業を大きくすることではない。

小学生の言葉から菓子作りの大切さを知る

 社長になって15年。高田社長が自ら考案した「虎ちゃん」や「そっくりスイーツ」も虎屋の新たな定番商品となってきた。「これからも新しい商品を開発していきますが、そうした独創的な商品と伝統的な商品の2本立てでいくつもりです」と語る高田社長。
 あるとき工場見学に来た小学生の一人が発した「ぼくは虎屋のお菓子を見ると元気が出るんじゃ」という言葉に「たかが菓子であっても、子供に元気を与えられる」と驚き、感動したという。その経験が「お菓子を通じて子供たちに伝えて行きたいものがある」という企業スローガンを生み出したのである。
 いま、高田社長が真剣に取り組んでいるのがCSR、つまり「企業の社会的責任」というテーマである。企業活動を続けながら、いかに社会と関わっていくか、その答えを見つけるために、江戸時代の思想家石田梅岩を研究したり、近江商人の「三方よし」の思想を学んでいるという。
「会社を継続するためには、売上げや利益を確保しなければならず、常に右肩上がりで成長するという前提があります。私に言わせればこの利益優先の考え方が資本主義を悪くしている原因で、利益確保のためには手段を選ばないという企業も出てくるのです」と高田社長。

大手も注目している虎屋の商品開発力

 そんな高田社長が思い描くのが「お菓子づくりのアイデアバンク」ともいうべき事業を立ち上げることである。虎屋には、その商品開発力や企画力に目をつけた大手の食品会社から、自社の商品開発に協力してほしい、共同開発しないかという申し入れや誘いが、しばしばある。実際に共同開発した成功例もある。そうした場合、高田社長には、社外取締役などのポストが提示されることが多い。
 「べつに社外取締役にしてもらわなくてもいいので、私が関わった商品が売れたら、その利益の何%かをインセンティブ(報奨金)でもらえないかと思うのです。そうすれば、投資をせずともアイデアと企画力だけで商売ができます。そんな提携先を全国にたくさんつくれば、年間売上げが10億円、経常利益も10億円という会社も夢ではありません」と楽しそうに笑う。こうした発想が出来るところがこの人の魅力であり、強みとなっていることは間違いない。

全国のマスコミが注目した福山城映像ライトアップ

 また、福山の経済人の一人として、地域活性化のための発言や活動も続けている。2007年の秋に行った福山城映像ライトアップ、これは高田社長が所属する葦陽ライオンズクラブが創立45周年の記念事業として行ったものだが、この活動でも中心的な役割を果たした。この映像ライトアップは市民の評判も上々で、マスコミでも大きく取り上げられ、福山市の新しい観光資源、年中行事として根づいていきそうである。

ブログからもうかがえる興味や関心の広さと行動力

虎屋のホームページを見ると、「第十六代当主の独り言」というコーナーがある。これは高田社長のブログであるが、そこで語られているのは仕事、経営、政治、経済、社会問題からプライベートな出来事、本、映画、音楽、芸術と実に多岐にわたっている。更新回数も多く、すでに一冊の本になるほどのボリュームで、高田社長の興味や関心の広さとその行動力が読む人を圧倒する。
 時代の流れや動きに敏感に反応し、積極果敢に行動する。それでいながら情にも厚い。ブログからはそんな高田社長の人柄がうかがえる。「虎屋」のシンボル虎は、千里を駆けるといわれる勇猛果敢な動物。これからもその名にふさわしい活躍を期待したくなる人物である。

インタビューの印刷画面はこちらから>>>

株式会社虎屋本舗

http://www.tora-ya.co.jp/
 

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